近視の治療

近視とは

遠くのものは見えにくく、近くのものはよく見える状態です。成長に伴い眼軸(がんじく:角膜から網膜までの距離)が長くなり、ピントが網膜の手前で合ってしまうようになります。成人になる前の成長期に生じた近視の場合は、レーシックやICLなどの矯正治療を受けない限り、裸眼視力は改善されません。近視の頻度は日本のみならず、近年世界的に増大しており、コロナ渦でデジタルデバイスの視聴時間が増えている現状では、今後さらなる増加が懸念されています。2050年までに約48億人、失明リスクのある強度近視は約9億人にまで増加することが予想されています。近視が強くなればなるほど、緑内障網膜剥離、近視性黄斑変性症の発症リスクが高くなるため、世界的な近視人口の増加は、失明へ至る人口が増加する可能性があるため、大きな問題となっています。

近視の原因

遺伝をはじめ、パソコンやスマートフォンなどの操作や勉強、近距離でものを見る作業など、ピントを近くに合わせる習慣が継続することによって、眼軸が長くなり近視に至るとされています。特に遺伝による影響は知られており、遺伝率は30~90%以上と報告によりさまざまです。

近視の症状

眼鏡またはコンタクトレンズを使って矯正しなければ、遠くのものがうまく見えなくなります。眼鏡・コンタクトレンズを着けていない状態ですと、近くまで目を近づけないと、ものがくっきりと映りません。
また近視だけでなく、「ものが歪んで見える」「視野の一部が見えにくくなる」といった合併症を引き起こすケースもあります。

近視が進行すると…

網膜剥離

網膜が薄くなって孔が開く「網膜裂孔」が起こり、眼内の液体が網膜と脈絡膜(みゃくらくまく)の間に溜まることで、網膜が剥がれてしまう疾患のリスクが上昇します。

近視性牽引黄斑症候群

近視では眼軸が長くなり、網膜が延ばされて、前後または横方向へ黄斑に亀裂が生じるなどの異常が出る疾患です。亀裂が大きくなり、黄斑円孔を生じると、そこから黄斑円孔網膜剥離を引き起こすこともあります。

近視性網脈絡膜新生血管

網膜を支えている脈絡膜に新生血管ができ、網膜側へ侵入することで、視力障害を引き起こしてしまう状態です。眼球へ直接、抗VEGF薬を注入する硝子体注射により治療を行います。

網脈絡膜萎縮

網膜と脈絡膜が薄くなり萎縮する状態です。原因は不明ですが、萎縮すると治療方法はなく、光を感じる力が大幅に低下します。予防するためには、成長期での近視の抑制治療が大切です。

開放隅角緑内障

強度近視になるほど、視野が欠損する緑内障を発症するリスクが高くなります。さらに近視に緑内障が合併すると、進行が早い場合があります。

当院の近視治療

マイオピン(低濃度アトロピン)点眼

シンガポール国立眼科センター(Singapore National Eye Center)にて開発された点眼薬です。小児期の近視の進行を抑えるために開発された薬で、アトロピンが0.01%と0.025%配合された2種類の点眼薬があります。近視の進行を、0.01%では約27%、0.025%では約43%軽減させる効果があると報告されています。

仮性近視といって、毛様体筋の緊張状態を取り、仮性近視を改善させるミドリンM(トロピカミド)という点眼薬がありますが、近視進行の抑制効果についてほとんど報告はありません。
ミドリンM(トロピカミド)と比較してマイオピン(低濃度アトロピン)の方が、近視抑制効果が大きいことが分かっています。

マイオピンを処方する前にはまず、子どもの目の状態をチェックする必要があります。それ以降は3ヶ月に一度の頻度で、検査・診察を受けていただきます。
マイオピンの処方は自由診療の対象となります。

近視による裸眼視力低下のため、学校検診で指摘されて、受診されるお子さんが増えています。学校検診の診察と低濃度アトロピンの処方を同日に行うと、混合診療となり全て自費診療となってしまいます。そのため、低濃度アトロピン処方は後日予約制とさせて頂いております。

   費用(税込)
マイオピン1本 0.01% 3,500円 
マイオピン1本 0.025% 4,000円

※1回の検査費用:1,100円(3カ月毎)
※点眼薬1本(5ml)は両眼用で1ヶ月間の使いきりです。

副作用について

アトロピンには、近視の進行を抑制させる効果があります。しかし日本で販売されている1%の配合ですと、まぶしく感じたり(瞳孔が開くため)、手元がぼやけて見えたりする副作用が強く現れてしまいます。
マイオピンは、アトロピンの濃度を0.01%と0.025%に抑えている点眼薬です。そのため副作用のリスクを最小限に抑えながら、近視抑制効果を得ることができます。しかし、眩しさや手元の見えにくさがみられる場合には、濃度を下げたり、中断することが必要なこともありますので、担当医とよくご相談ください。
また、途中で中断すると、リバウンドと言って近視の進行が元に戻ることが知られています。

多焦点コンタクトレンズ

近年では、遠近両用の多焦点ソフトコンタクトレンズの装着が、子どもの近視抑制効果に有効であると報告されています。従来のコンタクトレンズは単焦点のもので、網膜の中心部にはピントが合いますが、網膜の周辺部はピントがぼやけてしまい、そのぼやけが近視と眼軸長の進行に影響していることが、近年分かってきています。
遠近両用の多焦点コンタクトレンズは、周辺部の網膜の焦点ボケを抑えることで、近視化のトリガーを軽減する働きがあります。眼軸の伸びと、近視の進行を抑制する効果が期待されます。
近視の進行を抑えたい学童期から高校生までを対象として、多焦点コンタクトレンズをお勧めしています。
多焦点コンタクトレンズは、1dayタイプものを採用しています。不適切な使用などによる角膜感染症を起こすと、視力が戻らなくなる恐れもあります。レンズの取り扱いが非常に重要ですので、ご両親の協力が不可欠です。

※コンタクトレンズを初めて着ける方の場合は、装着テストと練習を行うため、1時間ほどお時間をいただいています。

なぜ近視抑制は小さいうちに始めるのか?

生まれたばかりの赤ちゃんのほとんどは遠視の状態です。成長とともに眼球が奥に伸びていき、12歳ぐらいの頃には正視といって、遠視でも近視でもなく、ピントがしっかりと合った状態になります。しかし、正視化の過程において、近視に傾いてしまうと、近視も進行しやすくなります。
最近の研究では、小児期に近視の進行を1D抑制することで、近視性黄斑変性を発症する可能性が40%低減し、また視力障害の発生リスクを20%低減することが分かってきています。そのため、近視の進行しやすい学童期から近視の抑制治療を始めるのがお勧めです。

近視の予防

「正しい姿勢」と「適度な明るさ」

「30cm未満の距離で本やスマホ、ゲームを長時間行う」といった習慣が続くと、近視が進みやすくなると報告されています。作業をするときは、30cm以上の距離をとって行いましょう。また明るい場所での読書は、近視化が抑制される可能性があります。

太陽光を浴びる

太陽光にはバイオレットライトが含まれています。バイオレットライトは、波長360~400nmの可視光です。近年ではこのバイオレットライトを浴びることが、近視を抑えるのに有効だと言われています。屋外での活動時間を増やすことで(40分以上)、近視の抑制効果が認めらています。逆に言えば、屋内で過ごす時間が長くなったりすると、近視が進みやすくなります。
また屋外での運動習慣は、睡眠リズムの改善にも有効です。特に成長期の子どもにとって、適切な目の成長のために早寝早起きと朝ご飯を食べる習慣は、大切です。

適度に目を休めましょう

長時間近くのものを見ると、周辺部網膜の遠視性のぼけ(網膜より後ろに焦点を結ぶぼけ)がトリガーとなり、近視が進みやすくなると考えられています。パソコンやタブレット、スマホを見続ける時は、20~30分に一度、小休憩時間をとり遠くを眺めるようにしましょう。

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